ラーイ(モードまたはキー)

演奏と練習方法のところで、ヤニで E+ と A+(高いミとラ)を塞いでおくと Am 調になる、と説明しました。 この状態でAからGまでのマイナー・スケールを基本として演奏する方法は「ラーイ・ヤイ」と呼ばれます。 「ラーイ」は西洋音楽で言うところのモードまたはキーに相当すると言われます。 ケーンではこの他にもいくつかのよく使われるモードが有ります。 またここでの説明もAmスケール標準のケーンを想定しています。

ラーイ・ヤイ ลายใหญ่

最初にドレミを練習するときにも使いました。E+とA+を閉じておいて、 A B C D E G を多く使い、Am調で演奏します。 「ヤイ」は「大きい」という意味の形容詞で、全体に低く太い響きになります。 A+は小指で閉じた状態にしておき、必要に応じて開放しますが、慣れるまでは小指に非常に負担がかかるのでヤニを使っても良いでしょう。 また、A+を閉じたままでE+を開放しておく方法もあり、これだと旋律の中でE+の音がはっきりと聞こえます。 最も多いのがE+だけヤニで閉じ、A+は小指で閉じる方法です。

ラーイ・ノーイ ลายน้อย

A+を閉じておいて、D F G A C を多く使い、F調またはDm調で演奏します。 マイナー調なら右手薬指でD+を閉じることも有ります。 全体に細く高い響きが聞こえます。 旋律を聞いているとDの音がラに相当する感じがすると思います。Dをラと見なせば、全音階の ラ シ ド レ ミ ソ に相当する音が出せます。

Bの音はファ♯に相当しますが、これも味付けとして使われます。 ピン(イサーンの弦楽器で構造はほぼギターと同じ)の演奏でF#を多用しますが、それと同じような感じが出ます*。

*ピンのF#: イサーン音楽は半音を使わない分かりやすいメロディーがほとんどです。 ピンにも基本的に全音階にしかフレットがありませんが、 3本の弦の真中の弦(開放A)にB音のフレットがあるため、それに応じて両側の弦(開放E)にF#に相当する半音が存在します。 このF#の音がピン独特の旋律の為に多用されます。

ラーイ・ヤイで練習してきて、最初にラーイ・ノーイをやってみる時は、まるでドレミを改めて覚えなおすように複雑に感じるかもしれません。 これは、ギターなら指板上のフレットにスケールを展開してしまえば相対位置としてすぐ理解できるのに対し、ケーンのような楽器はドレミに対する指の位置が全く異なることになるからです。

「ノーイ(小さい)」という名前は、全体に非常に高く細い音に聞こえるためと言われます。 また細くもの悲しい旋律として使われることから「未亡人の子守唄」などと呼ばれることもあるそうです。

ラーイ・スッサネーン สายสุดสะแนน

GとG+、またはG+、あるいはC+とG+を閉じておいて C D E G A を多用するのでC調に聞こえます。 モーラムの伴奏でも人気があります。 「スッ」は「最も近い ใกล้ที่สุด」を意味し、 「サネーン」、または「サーイネーン สายแนน」は愛情の糸を意味します。 従ってスッサネーンは「愛情の糸の結びつき」などと訳してもよいかもしれません。

別の説では左のGの管の呼び名がサネーンで、これを基調とし、なおかつ最後にこの音で終わるから、という人も居ます。

ラーイ・ポサーイ ลายโป๊ะซ้าย

G+とC+を閉じておいて F G A C D を多用し、大抵はラーイ・ノーイと同じ音階を使います。 Dを基音としたらDm7add11、Fを基音としたら FMadd9のような響きが聞こえます。 「ポサーイ」は「左手の親指」の意味で、C+を左親指で閉じておく為です。

ラーイ・ソイ ลายสร้อย

D+とA+を閉じて G A B D E を多用します。 全音階的にはGを ド と見なすと ド レ ミ ファ ソ ラ そして シ♭ の音があります。 独奏のみで使われることが多く、ラーイ・ポサーイと似た旋律があって区別しにくいですが、一般的にラーイ・ポサーイより高く鋭い音に聞こえます。

ソイ(สร้อย) と呼ばれるのは非常に鋭く高い音があるためと言われますが、別の説ではタイ-ラオ語の「小さな断片をちぎり出す」という単語が語源で、スッサネーンとポサーイの一部をちぎって取り出したものだから、という話も有ります。

ラーイ・セー ลายเซ

BとE+を閉じて E G A B を多用します。 ラーイ・ノーイとラーイ・ヤイの一部に分類されることもあるので、基本モードは上記の5つであるとも言われます。

モードの切り替え

実際には演奏中に複数のモードを切り替えることも多々あります。 演奏者によってはヤニで穴を閉じずに小指を使う人が多いのも、自在にモードを行き来する為です。

よくあるモードの遷移は以下のものです。

ラーイに関する別の分類方法

別の分類方法もあります。まず曲調で以下の二つに大きく分類されます。

そして使われる音域で以下のように細分化します。

使う音域 ターン・ヤーオ ターン・サン
低域ラーイ・ヤイラーイ・スッサネーン
中域ラーイ・ノーイラーイ・ポサーイ
高域ラーイ・セーラーイ・ソイ

ラーイの定義については、各演奏者や地方によって異なった考え方も有ります。

例えばある人はラーイ・ヤイをラーイ・アーンナンスーヤイ( อ่านหนังสือใหญ่ 大きな本を読む、という意味)と呼ぶ人がいる一方、 ラーイ・アーンナンスーヤイはラーイ・ヤイでよく聞かれる全くリズムに法則性が無いように聞こえる部分、 これは語りをそのままメロディーにした物が由来ですが、その旋律の事であるという演奏家も多くいます。

また、同じメロディーでもゆったりとしたリズムのスッサネーンはソイ・ヤイと呼んでスッサネーンと分けている演奏家もいます。

このような呼び方の違いは度々あることなので、多少食い違ってもあまり気にすることは無いかと思います。

2007/02/12 Last modified.